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ロイヤル&スレイヴ!

第4章 3.ウワサのあのコとあの4人


「未結はわかりやすいなー。ぜーんぶ顔に書いてあったよーん」

楓くんの黒いネイルで彩られた指先が私の頬をぷにぷに、とつつく。
あぁ。猛くんの表情が一層不機嫌そうに。
心配しなくても、楓くんを取ったりなんかしないよ?


「っと、あんまり未結にちょっかいかけてると猛ちゃんがスネちゃうから俺はそろそろいくね」

猛くんをちらりと一瞥してから、楓くんは手をひらひらとさせた。

「お茶飲んでかない?」

ちょうど袋から紙コップを3つ取り出す途中だった手を止めて、私は楓くんを伺ってみた。

「ごめん、今度ちょーだい」

そういうと、顔の前でパチンと手を合わせて「ゴメン」のポーズを取る楓くん。

今度、という言葉がなんだか嬉しくて私の頬は勝手に緩んでしまう。

「そっか。また、いつでも遊びに来てね」

「うん。もちろん!」

勢いよく返事をした楓くんはフードをひらりとなびかせると、
クロスケとノワールの二匹の元に駆け寄ると、優しく抱き上げた。

薬缶の湯気が立つのを確認した私は火を止めて、楓くんと保健室の入り口まで向かう。

せめて、お見送りだけでもしたかった。

「じゃあね、未結。手当てしてくれてほんとにありがと。…あ」

思い出したような声をあげた楓くんは去り際、扉の前でくるり、とこちらに向き直る。

どうしたのかな。

私が、忘れ物?と訪ねようとすると、楓くんは私の方までぐっと距離を詰めてきて。

それから、耳元によせた唇で、小さく、けれどはっきりと呟いた。

「ジョーカーの猛ちゃんにはくれぐれも気をつけて、ね?」

ジョーカー?

猛くん?

気をつけてって?

距離の近さに動揺する暇すらない、そんな一瞬のことだった。


聞きたいことが一度にありすぎて、でも、私は言葉を発することができずきょとんと間抜けな顔しかできなくて。


楓くんはそれ以上は何も言わず、ただ微笑んで去っていってしまった。


その笑顔はどこか、妖艶で、はっと息を呑む妖しさがあったのだけれど。

意味深に残されたその言葉の意味を私が知ることになるのはまだもう少し、先――。

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