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近くて遠い

第17章 偵察

「……父と同じになるのがいやで、死にたいのに自殺することも選べなかった。」


ゆっくりと、再び話始めた光瑠さんの
死にたいという言葉に
ひどく心が痛んだ。



「生殺しに堪えられなかったから、父への腹いせにこのプロジェクトを始めた。
失敗して有川商事が潰れればいいと思った。

でも…」


光瑠さんは私の肩に乗せていた顔を上げた。



「あんまり部下が頑張るからな。
気付いたら、本気でやってた。
でも、動機が不純だったのは変わらない。
だから尊敬されるようなことはしてない。」


光瑠さん…


私は振り返って光瑠さんに向き合うと、
希望を宿した瞳をじっと見つめた。


彼は…


やはり悪い人じゃない…



その境遇のせいで、
少しずつ歪んでしまっただけ。


でも、

彼は今それを


自分の力で直そうとしている。



この土地の開発は


彼自身なのだと思った。



動機なんか関係ない。


大事なのは今どうやってそれと向き合っているかだ。


「な、なんで泣いてる!」


目が合うと、光瑠さんは私の目に溜まった涙を見て焦り出した。



「すみません…」


手で涙を拭うが、
込み上げる想いが強くて、余計に溢れてしまう。



「どっか痛いのか!?」



慌てて私の額を触る光瑠さんに、私は思わず抱き付いた。



「真希っ!?どうしたっ」


困った光瑠さんの声が頭から降ってくる。


──────噂によると大切な人を次々に亡くしたらしいわ…


──────孤独……なのね


──────俺は…お前に傍にいてほしい…


──────去っていった、みんな…





「…もう死にたいなんて言わないでくださいっ」


苦しくて胸が張り裂けてしまいそうなのを、私は光瑠さんにぶつけた。


「真希……」



ありったけの力で光瑠さんに抱き付いた。



そうしないと、

どっかに光瑠さんが行ってしまいそうな、


そんな気がしたから。



「…言わない。
今は死にたくないからな……」


光瑠さんはそう言って、私の肩を持って、ゆっくりと私を離した。


光瑠さんの言葉にホッとした私は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を光瑠さんに向けた。

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