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近くて遠い

第17章 偵察

「…ふっ…ひどい顔だな…」


「なっ…」


クスクスと笑う光瑠さんに私は腹を立てた。


「ひどいっ!」


私はそう言って光瑠さんの腕を振りほどいて車に向かおうとした。


「おい、真希っ!」


そんな私を光瑠さんは追い掛けると、私の腕を掴んだ。


「やだっ」



懸命に振りほどこうとするのを光瑠さんは許さない。


「怒るな。
めんどくさい。」



「めんどっ!?」


それはあなたでしょ!

と大きく突っ込みそうになったとき、光瑠さんは私を引き寄せて顔を近付けた。


慣れない…


いつまで経っても


この至近距離で見つめられると、


私は何も出来なくなってしまう。


「うそだ」


「っ…もういいです!」


「綺麗だ…誰よりも…何よりも」


「っ…んん」


光瑠さん目を細めてキザにきめると、優しく唇を重ねた。



キザだと思いながらも、
私は完全にやられていた。


初めて光瑠さんに綺麗と言われた…


高鳴る心臓と長く重なる唇に
どうかなってしまいそうだった…


そのとき


「随分絵になるキスシーンですね…」



という酒田さんの声が私を現実に引き戻した。

「っ…!お前、タイミングわざと合わせてるだろっ!!」


「そっ、そんなわけないじゃないですかっ!!
社長がいつ話しかけても真希さんとイチャイチャしてらっしゃるから!」


恥ずかしすぎて卒倒しそうな私を挟んで、光瑠さんと酒田さんが大声で話す。



イチャイチャっ……


そんなんじゃっ…



「独り身の僕の身にもなってください…」


酒田さんは寂しそうにそう呟くと、静かに車に入っていった。


「なんなんだあいつっ…

ほら、真希、帰るぞ。」


酒田さんの言葉に文句をいうと、光瑠さんは私に車に乗るように促した。



帰るぞ


そんな一言だけで
一々胸がきゅんとする自分を、少し変だと思いながら、私はその土地をあとにした。



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