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近くて遠い

第18章 時計が狂う

──────…


「真希…最近綺麗になったわね…」


「えっ、そうかな…?」


脇でホットチョコレートを飲んでいると、お母さんがベッドに横たわりながら私をみて言った。


「うん…、なんか、言葉で説明しにくいけど、艶があるっていうか…」


「艶……」



よく分からないな…

と思いながら、私はマグカップをグッと握った。


「有川さんのお蔭ね…」


「…!?」


「なぁに、びっくりした顔しちゃって。」


お母さんは細い身体を震わせてクスクスと笑った。



「だっ、だって、急に光瑠さんの名前出すから…」


「……名前呼びになってる…」


ニヤっとしながら私を見た。


「んっ…んん………」


最近色々な人にからかわれてばかりだな、
と思いながら、私は顔を隠すようにホットチョコレートを飲んだ。



日が高かったのが、14時になって少しだけ傾くと、
お母さんのベッドまで光が達してきた。



「カーテン、閉めようか」


マグカップを置いて立ち上がる私を、お母さんが、あ、といって引き止めた。



「なに?」


「薄い…斜光のカーテンだけでいいよ。」


「分かった。」


そう言って、返事をすると、私は窓際に向かって、大きなカーテンを閉めながら外を見た。


黒い車が一台、入り口近くに止まっているのが見えた。


会社のかな…?


とも思ったが、
すぐに会社の入り口はまた別にあるというのを思い出した。



来客かな。



軽くそんなことを思っていると、お母さんが咳をしながら、私の名を呼んだ。

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