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近くて遠い

第18章 時計が狂う

「大丈夫?」



シャッと勢いよくカーテンを閉めて、お母さんにかけよる。



「う、うん。」


「やっぱこれしなよ。」



私は脇にかかっていた酸素マスクをお母さんの口にかけた。


「楽だけど…
しゃべりにくくて…」



ふぁっと一気にマスクが曇る。



「そうだけど…」



困った表情で眺めるとお母さんが私の手を握った。



細くて、

血管が浮き出た腕は

とても弱々しい



「真希……有川さんとは、いつ結婚するの…?」



「えっ…」



「真希の花嫁姿、見たいなぁって…」


そう言って、お母さんは天井を見つめた。



「早くしないと、お母さんそんなに永くは…」



「やめてっ!」



急に弱気な発言をしたお母さんの言葉を私は遮った。


「真希……」



困った顔でお母さんが私を見る。



嫌だ。


考えたくない。


お母さんは…

ちゃんと元気なるんだから…


「弱気なこと言わないでよ。」


刺のある言い方になってしまった。


お母さんが弱まっているのは私が一番分かってる。


細くなってしまって、


咳も抜けない…


でも…

でも…




「………」



二人の間に沈黙が流れる。


分かっていても
言ってはいけない。


暗黙の了解の線が

二人の間に張りつめる。



「決まったら……
教えてね…
なるべく、早く…」


「………」


「…お母さん、少しだけ眠るわ」


「……分かった」


ゆっくりと閉じられた目元をじっと見つめる。



また皺が増えた…


こうやって

人は年を取る。



忍び寄る、
死という黒い影…


いけない、

考えてはいけない…


私は、しばらく立ちすくんだあと、


震える手をぎゅっと握ってお母さんの部屋を出た。




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