テキストサイズ

近くて遠い

第3章 父の残したもの

「じゃあこれもらってくねぇ~」



「待って……!」



そう言って立ち去ろうとする男の足に私は力を振り絞ってしがみついた。



「お願いします…
そのお金だけは持っていかないで下さい…
病気の母と小学生の弟がいるんです…
必ず返します。けど、今そのお金を持っていかれたら…」



溢れそうになる涙をグッとこらえた。



男はそんな私を冷たい目で見つめてしゃがむ。


「それは大変だねぇ。
でもね、金にこの金あの金もないんだよ。
金は金だ。」



そして足にすがる私を投げ飛ばした。


非力だ…

私は…とても…


「お父さんが悪いだよ~おじさんたちは悪くない。
それくらいおじょーちゃんなら分かるだろ。」



悔しくて、
でもどうすることもできなくて


私はただ男たちの去っていく足音を聞いていた。




「あ……
卵どうしよう…本当。」



私は1人で笑いながら、ぐちゃぐちゃに割れた卵を見た。


生き残ってる卵あるかな…


溢れた食材を淡々とビニールに戻して私はゆっくりと立ち上がった。



玄関のドアに手をかけると、何かを踏んだ感触があって足をあげた。




10円か。





私はそれをゆっくりと拾おうとすると、急に目に涙が溜まるのを感じた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ