テキストサイズ

近くて遠い

第34章 Sweet Night

「別にいいですよ。」



震える私の手を要さんが掴んだ。



「お金も傘も…
全部あなたと繋がっていたかったから、渡したんです。
もう…
いらないでしょう?」



ドキッ──と胸が鳴った。


「で、でも……」


顔を上げた私の頬を要さんが撫でた。



「ただ、これからは
雨が降っている日は、傘をさすようにしてください。
風邪をひかれたら…
僕が心配で倒れてしまう…」



「っ…」



甘いセリフを甘い声で囁かれる。



なりやまない鼓動のせいか、息が苦しい…




ギィっとブレーキを引く音が聞こえると、要さんが窓の外を見た。



行きましょうか──


そう言われて私はまた彼に導かれる。



いつもより肌が露出しているせいか、冷たい風を感じたけど、寒くはなかった。




入ったバーは、
暗い照明でまさに大人な雰囲気を醸し出していた。



どうぞ、とボーイらしき人に案内され、私と要さんはこじんまりとした個室についた。



「ずっと歩いてたから疲れたでしょ?」



腕時計をずらすように手首を振るわせながら、要さんが言った。



「いいえ、楽しかったですから、全然。」


二人きりなった途端ドキドキしてしまって私は目線を合わせずに答えた。



なら良かった──



と要さんが答えたとき、
店員さんが現れて、私と要さんそれぞれ別の飲み物をテーブルの上に乗せ、去っていった。




「あの……

これ……」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ