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近くて遠い

第8章 助けと契約

はじめての快感に足がおぼつかなくなり、気付いたら完全に有川様にもたれ掛かっていた。



「悪かった……」



え……?



意識が朦朧とする中で、
有川様の声がかすかに聞こえて顔をあげた。



「話は全部聞いた。

悪かった。

あの、夕夏とかいう女に嫌がらせを受けたんだろ?」


うそ……


あの横柄で偏屈で乱暴な有川様が…



私に謝ってるなんて…




「なんか言え。」


「いたっ」


そんなことを思った矢先に腕を強く掴まれる。



「べ、別に…大丈夫です…」


何なのよ!


やっぱり乱暴なんじゃない…



「きゃっ…えっ?ちょっ…」


有川様はしばらく黙るとそのまま私を引っ張って強く抱き締めた。



「もうこんなところで働くな…」



え………?



「うちに来い。
お前に選ぶ権利はない。
これは契約だ。」



契約……?

は……?




「ど、どういう意味ですか…?」



私は抱き締められたまま、質問した。



有川様はゆっくり身体を放すといつものような仏頂面に戻っていた。



「お前が気に入った。
だから、お前を買ってやろう。


"三千万"で。」



言い放たれた言葉に目を見開いた。


三…千万で……


私を買う……?



──────三千万なんか、現金だろうとなんだろうといつでもくれてやる




原田に放った有川様のセリフが頭を駆け巡った。




「悪くない話のはずだ。」


顔色一つ変えずに
言葉を発する有川様に
私は身体の熱も冷め、絶望した。

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