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近くて遠い

第9章 夢と現実

夢でも見ているのかと、
疑うくらい幻想的だった。



人影は近付いてくるのに
時が止まったような感覚がして、
身動きが取れない。




ヒュ…


少し強めの風が私の背中を押すように吹いたかと思うと
もう、後数メートルの距離にいる人の傘がフワリと上に上がった。




風になびく綺麗な黒髪




キリっとした顔立ち……





バチっと目が合うと私は、はっと息を飲んだ。





カナメさんだ…………





真っ直ぐで力強い目が私を捉える。




間違いない…




いや、


間違えるはずがない…




あの日から、


何度も何度も胸を熱くして想った人が


再び雨の日に


私の前に現れた。



会えた…



カナメさんにやっと…




込み上げる想いが熱すぎて声が出ない。



カナメさんはしっかりと私を見ながら、近付いて来る。




どうしよう、

何から話そう…

とりあえず

お礼を言って、

それからちゃんと名前を聞いて…



ついに目の前に来るその人に、私は膝をついたまま見上げた。




「カナメさ……」






え…………?





雨と風が一層強まる──…




確かに目は合っていたはずなのに


カナメさんは私がまるでいないかのようにしてスー…と私の横を通りすぎた。



そんな。



何で?



どうして?



訳が分からず


雨に打たれたまま固まった。


激しい雨の音と共に、


遠ざかる足音が微かに聞こえていた。



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