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不器用なタッシュ

第18章 旅立ち

イタリア行の飛行機が離陸を開始する。


流れてくる機内アナウンスをぼんやりと聞きながら、窓から見える景色を虚ろな目で眺めていた。


直行便でローマまで約十三時間――――ただ座っているだけですることがない。

寝るか――ここ最近、ちゃんと眠れていなかったしな。

イタリア行に向けてずっと絵を描いていて、やっと結果出せたら香織のことでバタバタして――――。

香織――――どうしているかな。

今頃、俺がイタリアに飛んだとことを安岡に聞いて、ホッとしているかもな。
香織の顔を思い出すと、胸の奥が切りつけられるみたいに痛い――――。


考えなければいいのだろうけど、無意識に思い浮かべてしまう。


香織の笑顔、照れた顔、何か言いたげにもごもごさせていた口元、一所懸命応援していてくれた姿――――。

ここ最近は怒った顔、泣いた顔ばかりだったけど、思い返すと全部愛おしく感じる。


想いとは裏腹に、胸の痛みが大きくなるだけだった。


忘れられるのだろうか――――。

忘れなきゃならないのだろうか――――。

香織が好きだった画家――『サルバドール・ダリ』は、妻のガラが亡くなった後は作品を描かなくなったよな。

香織が傍に居ないのに、俺は絵を描けるのかな――――?


空高く飛ぶ飛行機からの景色は絶景な筈なのに、俺の目に映るものは全て真っ暗に見えた。

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