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不器用なタッシュ

第19章 エピローグ

「香織……」


会いたい――会いたい――――。


もう叶わない切望が、止めどなく溢れてきて苦しい。


俺は咄嗟に携帯を握り、画像ホルダーから香織の写真を開いた。


「……香織……」


そこに居るのは、楽しそうに笑う浴衣姿の香織だった――――。


俺とは行けなかった花火大会。


今度は一緒に行こうって言ってくれていたのに――――。


瞬間――――俺の中で花火が打ち上がったみたいに何かが弾ける。


俺は本能的に床に転がしていた木炭を拾って、カンバスに一気に描き始めた。


夜空を色鮮やかに彩る花火のように、俺の心を彩ってくれていたのは君の笑顔――――。

俺はずっと、君と一緒に居たかった――――。

君とこのイタリアの景色を眺めながら、笑って過ごしたかったんだ――――。


香織の笑顔だけを思い浮かべて、ひたすら、一心不乱に描き続けた。



時間の感覚なんかなかった。


描き上がった時には、外は夕焼けに染まっていた。


カンバスには満面に微笑む、君の笑顔――――。


「香織……か……おり……」


もう二度と見れない笑顔の前で、俺は立ち尽くす――――。


「……愛してる……」


囁いた途端、瞳から大粒の涙が零れた。


その雫は床に落ちて、不格好な染みになっていく。


それはまるで、不器用に描かれた『タッシュ』みたいに――――。


                 ――――completo

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