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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第3章 春の夢 参

 〝男〟として見られなくても良いから、ただ一人の人間としてお須万に認められたかった。清七はそう叫びたい想いをこらえ、肩を落として歩き始めた。
 いつしか周囲は薄墨を溶き流したような宵闇が立ち込め、橋のほとりの桜の樹の下にも淡い闇が忍び寄ろうとしている。秋になって紅く色づいた葉は、直にすべて散り寒々とした裸木となって寒く長い冬を過ごすのだ。

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