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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第3章 春の夢 参

 清七は悄然としてお須万が向かった町人町とは逆方向に向けて歩いてゆく。それは、どんなことがあっても、けして交わることのない二人の縁(えにし)の糸―人生にも似ていた。
 今夜だけは、灯りもない真っ暗な我が家に帰る気にはなれなかった。武家屋敷町を抜けた外れには黄檗宗の名刹随明寺がある。その門前道の両脇には色宿や連れ込み宿が建ち並び、昼間とてなお人通りもなく一種独特の淫猥な雰囲気を醸し出している。

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