テキストサイズ

花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第4章 春の夢 四

 当時、先代の安右衛門はまだ健在であり、嘉一はその陰陽なたのない誠実な人柄、読み書き算盤の才を見込まれ、早くから主人安右衛門の期待を受けて安右衛門自らにみっちりと仕込まれた。
 そして手代から手代頭と順当に出世し、二十歳のときにはその若さで番頭に抜擢されたのだ。先の番頭の彦市が体調を崩して退かざるを得ない仕儀になったためとはいえ、伊勢屋には嘉一よりもはるかに年上の経験も積んだ手代がいたにも拘わらず、先代は嘉一をいきなり番頭に引き上げた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ