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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第4章 春の夢 四

 普通なら、嘉一のような立場にいれば、もっと早くにお須万を言いくるめるか誑かすかして伊勢屋の聟に納まろうと考えそうなものだが、この律儀な男は先代から受けた恩を忘れることなく、終始裏方に徹し、若い女主人の良き相談役であり続けた。
 この度、二人の間を取り持ち、お須万当人に長年忠勤を励んできたこの番頭を新しい良人に迎えてはと進言したのは信濃屋惣兵衛―亡くなった慎之助、つまりお須万の前の亭主の大叔父に当たる男だという。

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