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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第4章 春の夢 四

 だが、一年前の夕暮れ、清七をうろんな眼つきで睨(ね)めつけてきたあの嘉一という男を何となく厭な奴だと思ってきた清七にとっては、複雑な心境であった。
 あの時、嘉一は明らかに清七がお須万と何らかの拘わりがあることを見抜いていた。朴念仁とはいわれていても、生き馬の眼を抜く商人の世界を生き抜いてきた男だ、人を見る眼、人の機微を見抜く眼の確かさは本物だろう。

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