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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第4章 春の夢 四

 嘉一だけは、この子の父親として認めるわけにはゆかない。そう思ったのが、事の発端であったことは憶えている。だからといって、お千寿を攫ったからといって、事態は何も変わるわけではないのに。
―いっそのこと、この子とお須万を道連れに親子三人で無理心中とでもいくか。
 ちらりとそんな怖ろしい考えが脳裡をよぎり、清七はまたしても己れがほの昏(くら)い底なしの闇へと引きずり込まれようとしていることに気付き、ハッと我に返った。何という怖ろしいことを自分は考えるのだろうか。

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