テキストサイズ

花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第4章 春の夢 四

 清七は、しばらく小さな娘と見つめ合った。それは、時間にしてはほんのわずかなものだったろう。だが、清七には途方もなく長く思えた至福のひとときになった。
 と、腕の中の小さな娘がニコリと笑(え)んだのだ―。まだ歯も生えておらぬ小さな口許を綻ばせ、にっこりと。
 そのあまりに愛くるしい笑顔に、清七の眼に、また、涙が溢れた。
 お千寿を抱いて外に出ると、春のやわらかな風がそっと吹き抜けていった。穏やかな陽が真っすぐに道に差し込んでいる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ