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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第2章 春の夢 弐

「それでは、他のお人をあまりお待たせするわけにもゆかない、夜道は物騒だから、くれぐれも気をつけてお帰りなさい。番頭さん、お内儀(かみ)さんのことをよろしく頼みましたよ」
 信濃屋はそう言いおいて、〝みやこ〟と紺地に白く染め抜かれた長暖簾をかき分け、中へと戻ってゆく。
 女の傍らにいた若い男が〝へえ〟と畏まって信濃屋に頭を下げた。
「それでは、お内儀さん。参りましょうか」
 その男が控えめに声をかけると、女はハッと我に返ったような表情(かお)で頷く。

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