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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第2章 春の夢 弐

 それでも、身代わりにされたことに腹立ちもなく、ただ空しいだけだった。何故、お須万の、あの女の心に棲みついているのがとうにこの世の者ではない男で、この自分ではないのか。
 そう思えば、果てしなく空疎な想いが胸の中にひろがってゆくばかりで、その空しさは日毎に大きくなり、清七はいつ何をしていても、我が身の内にぽっかりと空いた大きな空洞を抱えているような気がしてならなかった。

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