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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第2章 春の夢 弐

 いつの頃からか、清七は懐深くに匕首を忍ばせて出歩くようになった。一度は伊勢屋の近くまで、懐に匕首を隠し持ったまま行ったこともある。しかし、清七は、けしてお須万が憎いわけではなかった。むしろ、あまりにも恋しくてたまらず、この現世(うつしよ)で添うことの叶わぬ運命(さだめ)であれば、せめて来世で添い遂げたい―と、そう切なく望んだのである。
 自分でも何ゆえ、そこまであの女に魅せられるのか判らなかった。

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