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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第6章 光と陽だまりの章③

☆♯07 SceneⅦ(Christm as Calender~クリスマス・カレンダー~)☆

 美月は和室の壁にかかるカレンダーの日付を見て、小さな吐息をついた。Xマス・イブは、いよいよ明日に迫っている。〝24〟の数字の部分だけ赤いマジックで囲んである。むろん、やったのは美月だ。
 明日の夜は、クリスマス・ケーキを買ってきて、とびきりのご馳走をこしらえるつもりでいた。何しろ、勇一と二人で迎える初めてのクリスマスなのだ。
 美月はもう大分前から一人であれこれと計画を立てていた。プレゼントだって、ちゃんと用意してある。ポッキーが玩具にしても勇一が怒らなくて済むように、もう一枚、今度はモノトーンのツイードの毛糸でセーターを編んだ。
 勇一には、モノトーンの配色がよく似合う。きっとまた、気に入ってくれるはずだと自信を持っていた。
 だが。物事は大抵の場合、うまくゆかない。殊に、楽しみにして待てば待つほど、思わぬハプニングが起こるものである。
 今朝、トーストとコーヒー、ベーコンエッグの朝食を前に勇一が申し訳なさそうに切り出してきたのだ。
「ごめん、実は明日の夜、急にバイトが入っちゃってさ」
 美月は思わず、〝そんな〟と抗議の声を上げそうになるのを堪えた。
 何でも勇一の話によれば、明日の夜に出てくるはずの店員が急に出られなくなってしまったという。
「近々、奥さんに三人目の子どもが生まれる予定なんだけど」
 そう言って、勇一は事情を話して聞かせた。
 二日前に陣痛が来て入院したものの、一向にお産が進まず、明日、帝王切開で出産することに決まった。
「―というわけで、どうしても病院を抜けられないんだそうだ。手術は夕方からだっていうから、そりゃア仕事どころじゃないだろ」
 出産する病院が美月のかかっている同じ病院だと聞き、他人事ではなく思えた。
 だが、何日も前から準備をし、楽しみにしていたXマスがフイになってしまうとなれば、話は別である。とはいえ、子どもでもあるまいし、そのようなやんごとない事情であれば、それ以上、勇一に無理や我がままは言えなかった。

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