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息もできない

第24章 過去と現在

千尋は一度立ち上がって俺の横に座った
俺がそれを見て身体ごと千尋の方を向くと、千尋にふわりと抱き締められた


「わかってたの。ハルを解放出来るのは私だけだって。……でも、会いに行けなかった。……怖かったの」
「俺が?」
「違う。ハルが怖かったんじゃないの。……自分が怖かったの。また、ハルを傷つけるんじゃないかと思った」


耳元でゆっくりと話す千尋の声は僅かに震えている

俺はゆっくり千尋の背中に手を回した


「俺は千尋に傷つけられたことなんてないよ。俺が傷つけただけだ」
「違う。違うよハル。私はハルを傷つけてた。ずっと。そのことから目を逸らしてたから、あんな……」


千尋は俺の肩に目を押し付けるように涙を流した
肩がじんわり濡れるのが伝わってくる


「ごめんね、ハル……」
「謝るな。俺が謝りに来たんだよ。千尋ごめん」


俺がそう言うと千尋は俺から体を離した


「千尋顔ぐちゃぐちゃだぞ。ブサイク」
「うるさい、馬鹿ハル」


涙に濡れても尚その美しさがわかる程美人な幼馴染を、俺なんかよりよっぽど大人で思慮深い彼女を、俺は心から誇りに思った

千尋は涙を袖口で拭って俺の目をまっすぐに見つめた


「ハル、あれは事件でもなんでもない。そんな思い悩む程本当は深刻なものじゃない。ただ、深刻なフリをしてただけ」
「フリ?」
「そう、フリ。あの頃の私達はまだ幼かったのよ。何でもないことを大袈裟にしてみたかっただけ。そういう年ごろだったの、きっと」
「思春期?」
「そうそう、思春期」


俺達はそんな似合わない単語で笑いあった


「だからトラウマのように考えることなんてない。だってあなたは同じ過ちなんて犯さないでしょう?」
「あぁ」


逞しいな
女性ってのは、こんなに強いのか

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