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薫子の先生な日常

第2章 Kとわたし

進路希望調査が出ないまま、Kの三者面談は始まった。

「先生、いつもすみません。うちの子とうちの人の意見がまとまらなくて…」

消防士になりたいKと

現役消防士のお父さんの間に意見の相違があることは、意外な気がした。

「この子、体育科がある学校に進むから受験勉強はそこそこでいい…と言ってきかないんです…」

お母さんは ほとほと手を焼いている様子だ。

「先生からも、言ってやって下さい。うちの子、先生のことが大好きで、家で先生のことばかり話すんですよ。他は風呂とメシしか言わないのに…」

ちら、とKを見ると半袖の袖をまくりあげ

視線の先は…外の陸上部を見ているようだ。

私は笑顔を作り、ゆっくり息を吐いた。

「お父さんと同じ仕事を目指す、って素敵ですね。」
「体育科なら、公立のA高校と…私立のB高校があります。」

「見学は?」

聞くと、Kは私を見た。

Kは小刻みにふるふると首を振る。

「消防士になるなら、身体と心を作ることも大切ですね。」

「Kくんに合った学校を見つけて、筆記試験の勉強や社会に出た時困らない実力をつけるべきでしょう。」

Kは組んでいた足を私の方に重心を変えた。

お母さんは時々うなづいて、じっと聞いている。

「部活も勉強もバランスよくやりなよ。今のままだと、どちらの学校とも難しいから。」

「お父さんは何と?」

「ええ。通える範囲の普通科にした方がいい、と。進学したくなった時のためにも…」

お母さんの声と 遠くのホイッスルが重なる。

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