テキストサイズ

片想いの行方

第53章 彼の心




「……………」



「蓮くんが商社にいるのは知っていたけど

まさか一条さんのお父さんと繋がってたなんて……

大丈夫かな………」




消えそうな小さい声で呟いた美和に対して、俺は足を止めずに答える。




「心配ねーよ。うまくやるって言ってたから」


「……ほんと……?
ヒメ、蓮くんと電話で話したの?」


「あぁ。
金かかるし、大抵はメールだったけど」


「そっか」




隣りを歩きながら、美和は小さく微笑んだ。




「蓮くんの声はずっと聞けていないから……

仕事大変そうだけど……

……元気かな……」




「………元気だろ、あいつは」







一条の束縛から救い出して



自由になった美和と2人で歩いているのに



駅まで向かう道で、俺はそれ以上何も話せなかった。







同じ大学を卒業し、別々の道へ進んだ今でも



俺はあいつと同じ自分の名前を



新しく出逢う誰に対しても、呼ばせることができない。







……あれから何年も経っているのに





たった今、その名を “ 美和の口から ” 聞いただけで




苦しみにも似た、あの頃と同じ切ない感情が





俺の胸を締め付けていた。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ