テキストサイズ

片想いの行方

第53章 彼の心




「………………」



何も言わない俺を見て、美和が顔を覗き込む。




「ヒメ? どうしたの?」


「……いや、別に」






“ 今日は、美和に触らない ”




一条の本性を知る衝撃で、精神的にも動揺するだろうと予測していたから



自分の欲望が暴れないように、ここに来る前からそう決めていた。



だけど




ずっと想い続けている女から



こんな笑顔を見せられて、これだけ感謝の言葉を聞かされて



今の俺は、ポケットに入れた手が美和を抱きしめないように



衝動を抑えることだけで、精一杯だった。






……はぁ…… 情けねー……





「……明日だって普通に出勤なんだ。
寒いから風邪ひく前に帰るぞ」


「…うん……
アンナ達は、もう帰ったかな?」


「いつまでもあの場所にはいないだろ。
妊婦が出歩く時間じゃねーし。

ったくあの女、今日になっていきなり連絡よこしやがって」




電話に出ると開口一番、『なんで今日の事を私に言わないのよ!』と叫ばれた。



確かにアンナの事は頭によぎってはいたけど、体調を考えて呼ばなかっただけで。



だけど、ロビーでアンナを見たときの美和は、一気に緊張が解けたように、ほっとした顔をしていたから。



……やっぱり、来てくれて良かったんだと思う。





「……ヒメ………」





ベンチから立ち上がり、公園の外を歩き始めたところで


美和が口を開いた。





「……蓮くんも………



私のこと、助けてくれたんだね………」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ