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片想いの行方

第58章 忘れられない人


「……美和さんは、ずるいわ」




その人は階段を下に降りる途中で、ポツリと呟く。




「おい、いい加減に……」


「ヒメの気持ちを独り占めしてるのに、真正面から応えてあげないなんて。
ヒメが可哀想」





最後は震える声で言い放つと、その人はそのまま店の出口へと向かって行った。



………心の中が、真っ黒になる。





「美和さん、すみません。
今の女、俺とヒメと同じ大学時代の仲間で」




ヤスさんは私の近くに来て、申し訳なさそうな顔で床に膝をつく。





「まさか来てるなんて……
ちゃんと下で見ておくべきでした……」


「美和」





アンナが少し焦燥した顔で私の手を握る。





「今の女の話、一切聞かなかったと思えばいいから!

……それに、ごめん、私のさっきの言葉も取り消すわ。

周りがとやかく言える話じゃないのに、本当にごめん。

美和は、ヒメの言葉だけを信じればいいのよ」




握る手に力をこめて、アンナは私を真っ直ぐに見つめた。





………分かってる。




分かってるよ、アンナ………

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