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不器用なくちびる

第21章 【栞 16才】

今日こそは…
と祈るように、私は
日本から持ってきた携帯を開いた。

と言ってもこの電話は
どこにも繋がらない。

たった一枚の画像を見るためだけに
取ってあるものだから…

それは、橘くんが送ってくれた
島の灯台から見た海の画像…

これだけが、私に残る唯一の
橘くんの思い出の品。

画像を充分に眺めてから目を閉じる。

橘くんと歩いた、灯台へと続く道…
頬に感じる風…
潮の匂い…

あの時、私の隣には確かに貴方がいた。

ずっとずっと上の方にある彼の顔を
見上げると…そこには優しい瞳…

現実の私も
ベッドの中で首を上に向け、
少しでも彼との想い出を
感じようとしていた。

今日こそは…
どうか椎名の夢を見ませんように…
橘くん、どうか私を守って…

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