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とあるホストの裏事情・完

第22章 大切な人が

しばらくすると、絢が口を開いた。
「じゃー俺、オシゴト行ってくるわ。おとなしくしててね、研斗サン」
「・・・っ」

俺の鼻を一度軽くつまんで、そして不適な笑みを浮かべ、部屋を後にした。
瞬間、漏れるため息。
あいつと一緒にいると、疲れる。
あいつが弟?冗談じゃない。
あんなやつ、弟じゃないし、あんなオッサン、親父だって認めたくねぇ。

ギリ、と音がするほど歯を食い縛る。
・・・会いたい。
・・・触れたい。
・・・抱き締められたい。

「将悟・・・・・・」
思うことや口に出る言葉は、全て将悟に向けたもの。
届かない思いや声を、ぶつけるところも無いままにこぼす。
俺は、何やってんだ?
こんなところに易々と捕まって、親父だと、弟だと告げられて。
あんな酷いことをされて、年下に怯えて震えて。
ここにはいない恋人のことを考えて。


・・・・・・・・・泣いている。



目からこぼれた雫は、間違いなく涙。その瞬間、なんて哀れな人間だと、心から思った。

俺の存在価値は?
俺の存在意味は?
俺は“必要な”人間?


全てが分からなくなりそうで、一旦考えること、思うことを止めた。
瞬間、意識が遠のいていく感覚。




あぁ、これ、何回目だろう・・・・・・
素直に目を閉じた先は、当たり前のように暗黒な世界が、どこまでも、ただただ広がっているだけだった。

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