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とあるホストの裏事情・完

第8章 女

酔っていて目の前がくらくらするなか、その姿だけはハッキリと見えた。


架代さんが、少し背伸びをして、
それでも足りない身長を、将悟が屈んで補って。

どう見ても、二人とも合意の上での行為で。


その光景を見て立ちすくんでいると、突然の、目の前の暗転。


「研斗、戻ろっか」
「へ……あ、はい……」

その声は、誠也さんだった。俺の目の前に手をかざして目隠しをしてくれた。現実から目を背けろ、と。

優しく、穏やかなその声は、少しだけ掠れていて。
クルッ、と体を反転させられ、抱き締められる。

「大丈夫、大丈夫。見ちゃったもんはしょーがねえんだ」
「う……うっ、…」

その声を聞いた瞬間、俺の目からこぼれ落ちる大粒の涙。
とめどなく流れてゆく。

今まで、恋愛をしてきたなかで
こんなにも苦しい思いなどしたことなかった。
いや、する前に逃げていたのかもしれない。
親に捨てられることを知った昔の俺は、寂しかった。
ただ、寂しかっただけで。心の拠り所を、どうにかして見つけたかった。
その恋愛でも、捨てられるのが怖くて……
情けなくて……涙が、また溢れ出した。

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