テキストサイズ

君の瞳に映るもの

第3章 戸惑い

 零一に対して、こんな気持ちにさせているのは、私の中の、何?

 私自身であるはずなのに、別な誰かにそう思わされていると錯覚してしまう。

 そんなこと、あるはずもないのに。

 説明できないことが多すぎて纏まらない中、触れ合っている唇と指先だけが現実で、消えてしまわないように、手を伸ばす。

 初めて自分から触れた指先は少し震えていて、緊張しているのだと気づく。

 零一は、私の手をぎゅっと握り返して受け止め、私を抱き寄せながら唇に触れる。

「雅緋……」

 吐息に混じって紡ぎ出される名。

 地に足がつかないような、不思議な感覚の中、私は零一の首に腕を絡めた。

「抱きたい…――」

 その答えは、唇の奥。

 自覚できない所に在る本音は、全てを知っていた。

 それは、記憶の糸を手繰り寄せた先に見える…――。







 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ