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冴えかえりつつ 恋

第4章 県美で

上出は修了式を終えると学校の売店のパンで昼食をすませて、制服のままで県立美術館へきた。

正確には遥暉が行きたがっていた浮世絵展に付き添うことにしたのだ。

遥暉は中学校を卒業し一足先に春休みになっている。

家の車で県美まで送ってもらい先に入場していると遥暉から連絡があった。


遥暉はもともと芸術や文学が好きな物静かな性格だ。


上出が思っていたより閑いていた。

--成程、だから我慢できずに先に入ったんだな。


上出は拝観券を切ってもらいながら、丸山氏の言葉を思い出す。


『日常生活に支障はないんだが、時折左足に痙攣がでる。
傷は完治しているから、疲れやストレスが原因じゃないかと・・・。
発作的で前触れがないから、発作が人混みの中起きたら・・・・・。』




--まあ、これなら遥暉をすぐ見つけられそうだ。




少し急ぎ足で展示物を見て回る。

第3展示室まで行くと遥暉がいた。

淡いピンク色のセーターと白いパンツで少しまくった裾からでる細い足首と赤い靴。


--一見、性別に悩むよな。

ガキの頃近所の婆さんたちが、遥暉の事を『観音菩薩のようだ』と言っていたが、今ならわかる気がする。


いつも遥暉の周りの空気は凛として清々しい。



上出は長いこと一緒にいて遥暉が怒った顔を見たことが無い。

感情的になった遥暉をみたのは、この間が初めてだった。

いつも微笑を讃える口元からは汎愛のオーラが出ているのだ。


まるで菩薩像のように、遥暉自体が作品かと思うほど趣きがある。



--ほら、ほかの客も入った瞬間ギョッとして固まった。





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