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冴えかえりつつ 恋

第10章 発作

--よし、もうひと押し。



「ん~、意味わかんないけど?」


泰弘がとぼけてみせると、上出の表情が鋭くなり、語気を荒げて泰弘の腕をとった。



「遥暉に変なことしたら――」



殺気をちらつかせた上出の態度に満足し、満面の笑顔で泰弘は返事をした。


「変なことってなにかなぁ?

芸術音痴の上出君とでは満たされない楽しい芸術談義をしよう、

って話だったんだけど?」



上出を見上げると、からかわれたことに気づき真っ赤になって顔をそむけた。



その横顔に泰弘は諭すように声をかけた。



「丸山君と僕が二人っきりで出かけて良いなんて、ホントは思ってないだろ?
上出君、自分の気持ちに素直になれよ」




泰弘の幼い顔立ちにはそぐわない、人を素直にさせるような柔和な微笑みに、母のような包容力を感じた。


上出は、遥暉が警戒心もなく泰弘に懐いている理由が分かるような気がした。


「ま、まあ、可愛い二人連れじゃ危ないですから、おれも付き合います」


「ぷッ、素直じゃないなぁ。丸山君も苦労してそう...」



泰弘は上出の反応が可愛くて、吹き出してしまったが、満足した。

「遥暉が楽しみにしているんで、よろしくお願いします」




そのあと、上出は泰弘と地元駅で別れるまでずっと黙っていた。



ずっと仏頂面でシカトされても、泰弘はもうこのデカい後輩がかわいく見えて仕方がなかった。




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