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冴えかえりつつ 恋

第13章 恋人

4人はリビングで将棋やトランプを楽しんだ。

夕食を終える頃、外の雨は一段と激しくなり、犬養邸の周りの木々がざわざわと雨に打たれて枝をゆすっていた。

不意に照明が切れた。

「わっ!」

「何だ?」

「停電?」

皆が口々に声を上げた。



「動かないで、危ないから。今、何か照明を用意するから」

老婦人は冷静に学生達に声をかけ、ダイニングから出て行き、すぐに淑子さんと昼間の運転手さんが燭台を持ってきた。


「さあ、暗いけれどこれで食事くらいはできるでしょう。そのうち電気が復旧するでしょう」


「こんな食卓もステキですね」


遥暉が静かに老婆の後を続けた。

遥暉にとっては慣れ親しんだ家だから落ち着いているのか、例によって浮世離れした洒脱な捉え方なのか...。

他の人がこんなことを言ったら、吹き出されてしまいそうなセリフだが、遥暉が口にするとあまりに自然で、皆にやわらかい蝋燭の明かりを楽しむ雰囲気が流れ、和やかに食事を済ませた。

食事が終わってしばらくすると自家発電に切り替えられ、そこここの電灯や電話機が回復したようだ。


運転手が発電機の燃料が少ないことを犬養夫人に伝え、節電を訴えた。



「丸山君、将棋の決着はまたの機会にしようね。節電対策に、今日は早く寝ることにしようか」

泰弘の言葉に皆従って、早々に部屋へ引きあげることになった。




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