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恋してキスして抱きしめて

第15章 あたしだけを、見て

『……ふざけんな。そんな数いねーよ』



夏輝にも言われた嫌味を流して、2本目の煙草に火をつける。



『その同情話を聞いたところで
俺としてはだから何~?って感じなんだけど』



“ 朱莉だって苦しいんだよ ”



いつもは冗談を言い合う仲だけど、芯では俺を理解していると思っていたヒメに


珍しく、諭されるような説教染みた発言をされて


俺はなんとなく苛立ちを感じて、つい口調が荒くなった。





………定時で帰れる事務職の朱莉と違い


1日のどこに時間の区切りがあるか分からなくなる程、入社1年目の俺は休日も関係なく働き続けていた。


周りを蹴落としてでも上を目指すのが大手企業だけど、実際は様々な柵があって


頑張って成績を出せばいいってもんでもなく


上司や先輩の顔を立てたり、年々受け継がれてきた歴史や暗黙のルールを学んで、各取引先に対応できるよう差し引きをしなければならない。


スキルとセンスを磨き取得するまでは、一瞬だって気の抜けない毎日だった。

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