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晴れと雨

第2章 慣

自分のために何かしてもらったのは、ひさしぶりだった。
両親に育ててもらったことくらいだろうか。
それすらも自分のためとは疑わしかった。
あの人たちは、世間体を気にしてたから。
気まぐれで拾った青年にプレゼントをもらうことになるなんて。
あんなに照れ臭そうにしながら、自分のことを考えて選んでくれて、怒られるかもしれないバイトまでして。
気を付けていたのに、あの青年はどんどん隙間に流れ込んでくる。そのうち乗っ取られてしまいそう。
初めて感じた、人への愛くるしさ。
会って間もないのに、何でもしてあげたくなる。
深みにはまる。
決して自力では抜け出せない。
わかっていた。こうなってしまうことは。
もう手遅れ。失いたくない。二度と。

俺はあの人たちに捨てられた。
お互いに想い人を作り、俺が高校になる年に捨てた。
あの人たちは言った。

「5年も待った。私たちはお前に束縛されたくない」

若いながらに呆れた。
バカじゃないかと。気は確かなのかと。
離ればなれになることを告げられた時から、俺は俺なりに頑張ったんだ。
あの人たちが好いてくれれば、留まってくれる。
そう信じて。
あとは時間が忘れさせてくれるんじゃないかと、疑わなかった。
でもあの人たちは、互いの想い人の所へ行ってしまった。
両親に捨てられるんだ、他人を信じても意味がない。好きになっても無駄だ。
だから、自分が辛くなるだけだから、決して入りこまれてはいけない。
自分が辛くなるだけだから。

手遅れ。
もう俺を哀しませるほど、あの青年は心を占領している。
哀しい。だけど、何故か嬉しさも感じている自分に驚いた。

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