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晴れと雨

第2章 慣

「貴史さん、これ」

ズイと差し出された手には、藍色のケースが握られていた。

「これ?」

訳もわからず、そのケースを受け取る。
照れたような、怒っているような、よくわからない表情の渚が口を開いた。

「あの、バイトしたのは謝るし、でも貴史さんになにかお礼したかったし、そんなもんしか思い付かなかったけど、もらってほしい」

「は?」

色々なことに呆気にとられすぎて、貴史は渚を見たままの視界を外せないでいた。
バイトさせてしまったのか。
お礼ってなんのお礼だ。
そんなもん?

「あ、バイト駄目なら辞めるし、最初から無理に雇ってもらえただけだからさ」

固まったままの貴史が、怒っているように見えた渚は、そう続ける。

「…いや、なんかよくわからないが、これは俺にくれるんだろう?ありがとう。バイトまでさせてすまなかった。せっかくなんだ、続けるかどうかはそっちで決めてくれ」

貴史のお礼の言葉に、渚は耳まで朱色に染めた。
自分が何かをしてお礼を言われることが、こんなにもドキドキするなんて。
ただ喜んで貰えたことが嬉しかった。
自分を肯定されたようで、受け入れてもらえたようで。
渚は、視界が嬉しさで滲まないように唇を噛み締めた。

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