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晴れと雨

第1章 会

それは、あの日と同じ雨だった。
春先の雨はシトシト降り、辺りの気温をグンと下げるには十分だった。

俺は珍しく残業をし、いつもより幾分も遅い帰宅になっていた。
大通りから外れ、街灯の少ないその道に奴は倒れており、面倒ごとには巻き込まれたくないと思いながらも声を掛けてしまう自分に呆れる。

「おい、あんた大丈夫か?」

奴は地面から顔を上げ、ぼやけた目で俺を視界にいれたようだった。

「…だめです」

力なく言い残すと、ガクリと地面へ顔を戻す。
あの時、救急を呼べばよかったんだ。
何を思ったのか、俺は奴を自宅へ運び込み、介抱してしまう。
そこから若月渚という男になつかれてしまうことになるとは考えてもみなかったんだ。

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