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晴れと雨

第1章 会

「貴史さん、おはようございまーす」

渚の声は、シンとした貴史の寝室に大きく響いた。
勢いよくカーテンを開け、薄暗い部屋に光をいれる。

「っ…」

朝陽の眩しさに目の慣れていない貴史は、三白眼をより細めた。

「起きてください、朝飯できてますから」

渚は手早くカーテンを留めると、貴史に向き直った。

「…頼んでない」

第一、家に居てくれとも頼んでない。頭に浮かんだ言葉を呑み込む。
何故か渚を拾った日から同棲まで始まっていた。
貴史もいい大人だ。
あのあと家出同然の未成年の渚の家を聞き出し、親御さんに電話を掛けている。

『うちは渚にすべて任せてますから』

なんて親だ!心配くらいするものじゃないのか?
初対面(正しくは対面していないが)の渚の両親に、ひどく憤りを感じた貴史は、大人の対応とやらを忘れていた。

『そんな無責任なこと言うのなら、渚君はしばらくうちで預かりますから』

結局は、ことの発端は他でもない貴史自身だったのだ。
眠気だけではなく、頭を抱えたくなる。

「貴史さん、朝飯はしっかり食わなきゃいけないんですよ」

よもや自分のせいで、貴史が頭を抱えているとは思ってもいない渚は、心配そうに貴史を覗きこむ。
貴史は、小さくため息を吐き、のそりとベッドを降りる。

「…渚、家に居てくれても構わないが、気は使わなくていい。お互いに疲れるだろう?」

頭一つ分ほど高い貴史に圧倒され、言葉に詰まる渚だが、すぐに頭を振る。

「貴史さんの負担になっているなら謝ります。でも俺、タダで居候させてもらうわけにはいかないから…出来ることやりたいんです」

確かに渚を拾う前の貴史の家の惨状といったらなかった。
29の若さにして、ローンなしで一軒家を購入したはいいが仕事以外のことはからきしダメで、家には寝に帰るだけだったせいもあり、家事は一切出来ていなかった。
その惨状を渚が1日で本来の姿に甦らせたことは、貴史を驚かせた。

「負担には感じていない、わかったよ、好きにしてくれ」

結局は貴史が預かっているという手前、追い出せずに奇妙な同棲生活は続くのであった。

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