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晴れと雨

第3章 日

「あの子、なかなか綺麗じゃないか」

貴史は、鍋の様子を見ながら渚に話しかけた。
あの子とは、瀬川菜々子のことだろう。

「あ、瀬川さん?美人ですよね~、小柄だし髪もサラサラで長くて」

貴史から話をふられたことに渚は素直に応えた。何一つ間違ったことも思ってもいないことも言っていない。完璧な受け応えだった。

「…好きなの?」

貴史の声の調子は変わらない。相変わらずな単調さに言葉が詰まりそうになる。

「え……えっ!」

「だから、瀬川さんのこと。渚は好きなのか?」

今度は真っ直ぐ渚を見詰める。貴史に見られるとキチンと答えなくてはいけない気がして、渚は言葉を選びながら言った。

「あの、えーっと…嫌いではないですけど、まだよくわかりません」

「そう…あのさ、瀬川って苗字、俺の母親と同じなんだ」

「は?」

ドキドキして答えた切り返しが、まったく予想していなかった言葉で戸惑いを隠せない。

「いい機会だから、話しておくよ」

そう前おくと、貴史はポツリポツリと。でも解りやすく渚に両親のこと、自分のことを渚に伝える。
ただひとつ、渚への想いは伝えずに。

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