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晴れと雨

第3章 日

渚は、夕飯の買い物を手早く済ませ、帰路についた。
貴史を怒らせてしまったかもしれない。
電話では何も言っていなかったが、出ていけと言われるかもしれない。
一体何が貴史をあんな態度にさせたのかはわからないが、早く話をしなくてはいけない気がする。
心なしか、渚の歩幅は広くなっていく。
息も上がった頃に家に着いた。
呼吸を整え、玄関に入る。
貴史は自室にいるようで、リビングの明かりは点いていなかった。

「どうしよう…」

明かりのない部屋をみて、急に不安になる。
せっかくここまで親しくなれたのに。よくわからない状況で、関係が終わるのは嫌だった。一人に戻るのが怖かった。

「おかえり」

ふいに背中から声が掛けられた。
それは紛れもない貴史の声で。

「あ、ただいま、帰りました…えと、夕飯作りますね」

貴史から掛けられた声のおかげか、渚の中の不安は、波のように引いていった。
声の調子も、表情もいつも通りだったから。

「手伝うよ」

台所に並んで立っている貴史をみて、渚は先程の思いがまったくの杞憂だったと感じた。
こんなものじゃこの人との関係は壊れないようになっている。
貴史の思いを余所に、鼻唄まで出てしまいそうだった。

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