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晴れと雨

第4章 苦

渚は驚いた。
それと同時になんとも嬉しいような恥ずかしいような気持ちが込み上げてきて、少しむず痒かった。
あんなにも無愛想で、他人なんて受け入れないと思っていた貴史にそこまで想ってもらっていただなんて。

「俺の考えていることはだいぶ重いぞ」

「…そんなこと」

ない。
寧ろ、重いほど嬉しい。
今までこれ程自分を必要としてくれる人間はいなかった。しかも今現在、自分が必要と感じている人間から求められている。
これほどの幸福は感じたことがない。

「でも…そんな家族のような大事な人になれるんですか」

渚には血族がいて。貴史の社会的立場も、世間体もある。到底、思うようにはならない現実が。

「それは紙面上の話?…お互いが理解し合えてさえいれば問題はない。形なんてどうでもいい」

ああ、そうか。
周りを気にするからややこしくなるんだ。
そう考えると、ふと気持ちが軽くなる。
渚はようやく貴史を見上げる。

「俺と…家族になってくれますか?」

「俺でよければ。ただ…家族というには、幾分か嫉妬深いがいいのか?」

「うれしいですよ」

貴史はやっと笑った渚の目元を拭い、笑い返してみせた。

「目、赤くなっちゃったな」

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