テキストサイズ

晴れと雨

第4章 苦

どのくらいそうしていただろう。
渚は貴史の胸を借りていた。
遠くから規則正しい音が聞こえる。安心できる、それ。
気持ち悪がられてはいないだろうか。
貴史にも嫌われてしまったらどうしよう。
心地よいまどろみの中で、浮かんでは沈みを繰り返していた。
あのあと貴史は何も言わずに抱き締めていてくれた。
相変わらずのポーカーフェイスからは、何も読み取れなかった。
掛ける言葉に困っているのかもしれない。
自分でもこれはないと思う。
ただの居候に愛の告白紛いのことを言われたら。
自分だって。
いや、自分には貴史のように相手を安心させるために抱き締めてやることはできない。
それどころか拒絶してしまうだろう。

「渚」

シンとした部屋に貴史の低い声音が響いて、それは直接脳に落ちてくるかのようだった。

「俺の気持ちを話しておこうか」

そのままの体勢で、お互い顔を見ることもなく。
貴史は以前、渚には言わなかった"自分の頭のなか"のことを話はじめた。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ