テキストサイズ

晴れと雨

第6章 堕

俺は今までに誰からも愛された記憶がない。
幼少の頃はそんなことないと、心の何処かで否定していた。
しかし一番近くにいる母親にはその気がないことくらい、いや、近くにいる母親だからこそ。愛情というものがないことが、嫌でもわかってしまう。
彼らはそれを隠すこともしていなかった。
何故、俺を産んだのか。
何故、いらないものを作る行為をしたのか。
長年の疑問は、高校に上がる頃辺りに、ふいに理解してしまった。
彼らのよく言う言葉。

"恥ずかしくないように"

まるで呪文のように繰り返していた。
つまりは世間に恥ずかしくないように。
子供も。ましてや結婚自体も。
彼らの離婚は円満だったと周囲は思っている。
お互いに仕事で輝きつづけるためにと。
俺はそれを逆手にとる形になった。
親権に揉める二人から"金はやるから一人で生きていけ"
いい放たれた言葉。
その頃には、突き刺さる痛みも麻痺していた。
むしろ楽に思えた。
彼らがいなければ、必死にすがり付く必要もない。振り払われても傷付かないで済む。
学生からの一人暮らし。
無駄に貯まっていく金。
結局死ねずにダラダラと生きている自分。
自分でも最低だと思うほどに、取っ替え引っ替え女も抱いた。
性欲は満たされるが、行為後の嫌悪感が酷かった。
それは誰としても同じもので。
皆そろって行為後には、あの時の母親と同じ目になっていた。
そこには嫌悪しか感じない為、いつしか女遊びもしなくなった。
高みに上ろうとは思えず、家庭を築こうとも思えず、気が付いたら15年も生きてしまっていた。

そして俺はあいつを拾う。最後の砦とでも思ってしまったのだろう。若くて単純そうで。
こいつなら、取り入ることが出来そうだと。最低な思考で。
重苦しい空気のその時は、やっぱり天気は悪かった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ