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晴れと雨

第2章 慣

春先に出会ってから1ヶ月が過ぎようとしていた。
相変わらず渚は、甲斐甲斐しく貴史の世話を焼いていた。
厚く雲がかかった、そんなある休日のこと。
珍しく渚から貴史に話があると声を掛けた。

「なに?かしこまって」

普段の空元気な姿とは対称的な、肩を縮め俯く渚がいた。

「あのですね、貴史さん。ちょっと相談がありまして」

貴史は渚に用意してもらったコーヒーに口をつけ、言葉の続きを待つ。
渚は、一呼吸も二呼吸も置いて口を開いた。

「あの、俺、バイトをしたいのですが」

貴史の顔色を伺うように俯いた状態から目線だけをあげる。
貴史の表情は変わらない。

「で?」

「…よろしいでしょうか」

「最初にもダメだと言わなかったか?俺はお前を預かってるんだよ。働かすなんてもっての他だ。欲しいものがあるなら金ならやるから俺に言え」

話は終わりだな。そう言い残すと貴史は自室へ戻ってしまう。

「…それじゃ意味がないんだよ」

リビングに残された渚の言葉は、自身の耳に入ることなく消えていった。

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