メビウス~無限∞回路
第4章 囚われる闇
何ひとつ覚えてなかった。
「お母さんがあんなこと言ったから…もう、目が覚めなかったら……って」
言うなり母親が、まるで子供みたいにしがみつき泣きじゃくる。その背後によく見たら父親の姿もあって、母親を包むように抱きしめていた。
「僕………ごめんなさい」
嫌いにならないで欲しい。そう込めた気持ちに、母親の涙が一段と大きな洪水を流す。最後に覚えている溺れそうだったことは、もしかしたら母親の涙に溺れそうだったのかも知れない。呑気に思う幸一に、母親は心底ホッとしたようでその場に座り込んだ。
どうやら幸一は交通事故に遭って、一週間も目を開けなかったらしい。記憶の海に沈んだ何かに触れることはないが、それでも誰かが此処まで一緒に来てくれた。
「あのね…僕、誰かと一緒に来たんだよ…」
夢うつつに語る息子の言葉に、ただ頷く両親に安心したのか。今度は誘う眠りの波に素直に落ちていく。手を握る温かい体温と優しい視線に見守れてただ静かに目を閉じた。
†
「もう、大丈夫だぜ」
ゆっくりと身体を起こして尊が大きく伸びをひとつする。その傍でずっと膨大にエネルギーを横流ししていた神楽は冷めた目で笑う。
「こっちは全然、大丈夫じゃないですが」
「まあ、そう言うなって」
「言いますが」
「聞かねぇよ」
そっぽを見て唇を尖らせる尊の身体を挟むように、神楽の腕が伸びる。
「まっ…」
二の次も発せず、押し倒される形に寝台に縫いとめるように尊の両手を握った。
「じゃ、報酬は頂きましょうか」
「ま、待て!!ストップっ!」
「聞きません」
「ぎゃ…っ」
そのまま、与えられたエネルギー以上のエネルギーを放出させれる尊の姿があった。
完
「お母さんがあんなこと言ったから…もう、目が覚めなかったら……って」
言うなり母親が、まるで子供みたいにしがみつき泣きじゃくる。その背後によく見たら父親の姿もあって、母親を包むように抱きしめていた。
「僕………ごめんなさい」
嫌いにならないで欲しい。そう込めた気持ちに、母親の涙が一段と大きな洪水を流す。最後に覚えている溺れそうだったことは、もしかしたら母親の涙に溺れそうだったのかも知れない。呑気に思う幸一に、母親は心底ホッとしたようでその場に座り込んだ。
どうやら幸一は交通事故に遭って、一週間も目を開けなかったらしい。記憶の海に沈んだ何かに触れることはないが、それでも誰かが此処まで一緒に来てくれた。
「あのね…僕、誰かと一緒に来たんだよ…」
夢うつつに語る息子の言葉に、ただ頷く両親に安心したのか。今度は誘う眠りの波に素直に落ちていく。手を握る温かい体温と優しい視線に見守れてただ静かに目を閉じた。
†
「もう、大丈夫だぜ」
ゆっくりと身体を起こして尊が大きく伸びをひとつする。その傍でずっと膨大にエネルギーを横流ししていた神楽は冷めた目で笑う。
「こっちは全然、大丈夫じゃないですが」
「まあ、そう言うなって」
「言いますが」
「聞かねぇよ」
そっぽを見て唇を尖らせる尊の身体を挟むように、神楽の腕が伸びる。
「まっ…」
二の次も発せず、押し倒される形に寝台に縫いとめるように尊の両手を握った。
「じゃ、報酬は頂きましょうか」
「ま、待て!!ストップっ!」
「聞きません」
「ぎゃ…っ」
そのまま、与えられたエネルギー以上のエネルギーを放出させれる尊の姿があった。
完