メビウス~無限∞回路
第5章 闇に在る存在
死者を招く石…。
そう呼ばれている石がある。それはある大きな都市と県境に存在する朽ちた集落の外れにある民家に無造作に置かれていた。
いつ頃広がった噂だろう。この石は人の命を吸うのだと、まことしなやかに広がる様子は都市伝説として顔を出した。
既に人は住んでいない筈であるのに、管理された庭と壮大な屋敷。人の影はまったくと言えるほどなく、静寂ではなく沈寂に包まれている。空には膨張した丸く見える月がある他、星の明かりは薄く此処までは届いていなかった。
「…やめようよ…」
其処へ侵略を試みてみる影が二つ。噂に惹かれてやってきたカップルであることは間違いない。男は彼女の肩を掴み笑いかけるが、その瞳には噂が噂でしかないことを確かめて、自分の勇気を誇りたいという虚栄心に満ちていた。
「大丈夫だって!」
笑いながら敷地へと潜る。さほど広いとは思わない家が、寂しそうにあった。
軽く表門に触れて見る。
「何処にその石があるの…?」
「こっち………」
恐怖に引きつらせつつ、彼に問いかけると、横顔が答えてくれた。
ぎぃぃぃいぃ…
門は大して力を入れることなく開いていく。男は昼間探索に来ていたことを分からないように、自分がいかに勇気がある男かを、証明する為に下調べをしておいたので道は懐中電灯があれば事足りた。
じゃり…石詰の道には不思議と雑草さえも生えていない。まるで誰かが住んでいるかのように整頓された道―――。
「ねぇ、こんなに綺麗にされている庭よ? 本当に誰も住んでいないの??」
不思議という恐怖を両腕一杯抱えて問いかける彼女に、男は小さく頷きで返して先へと進んでいく。引き寄せられる引力に逆らえない男に女は引っ張られる。
ふらふらと歩く割には、目的地は決まっているとばかりに先を急ぐ。
女はどうしていいか分からず、一人でいる恐怖に勝てず。怯えながらも、恐怖心に似た興奮を持って、男の後をひたすらついていくばかりだ。