メビウス~無限∞回路
第5章 闇に在る存在
「ねぇ、やっぱり何か怖いよ!!」
真ん中にも進んでいないのに、引き返したいと言う彼女の言葉も、彼の耳には届いてはいない………。
綺麗な石畳の上をゆらゆらと身体を揺らし歩いていく。
最初は裾を握るだけだった彼女も、空気の威圧に恐れ。彼の腕に強く掴まり、後ろを幾度も幾度も振り返り歩いていた。
《なんだろう…誰かに見られている気がするんだけど………》
声にはしない。してしまえば増幅した恐怖に脳が支配されるという恐れがある。それを感じたから女は喉を鳴らすだけに留めた。
だからといって根本に植えつけられた恐怖は、それで収まる訳はなく。さらに持つ彼の腕に力を掛けるのだ。誰かといることで、少しでも感じる恐怖を和らげたい。当たり前の心理であった。
言葉に出来ず震える指先の、握る感触さえ、曖昧な気がする。しかしいざとなったら男が強いことは女には分かっていた。
『大丈夫』と繰り返すことで、漣のように寄せてくる不安を殺して歩いていく。
「ねぇ…何か話してよ」
緊張している様子もなく、庭を横切り、廊下が見えた庭へと進んでいく男。一歩中に踏み込んで歩き出してから、きちんと一度も返事を貰っていない。
それが不満で、女は強く男の腕を自らの胸元に寄せた。
「ねぇってば!」
強く言いながら腕を引けど、彼は一言も発せず。さらには無機質めいた瞳が女を見た。
「っ!?」
ごくっと唾を飲み込む音が、思いのほか強くなる。今まで男の色んな表情を知っていた女が初めて見た表情。
血の気ばかりか、全身の体温が下がっていくのを感じた。
「………やだ、ちょ…っ」
あまりに強い無言の威圧に耐えられず、女は掴んだ男の腕を離そうとした。
「ヒィ!」
そこを逆に掴み引き寄せられる。それは足元が危ないからだとか、彼女に寄り添いたいとかいう類ではなく、仕留めた獲物を引っ張る強さだ。もしくは家畜を捌き、後を処理場へと運ぶ強さだった。
真ん中にも進んでいないのに、引き返したいと言う彼女の言葉も、彼の耳には届いてはいない………。
綺麗な石畳の上をゆらゆらと身体を揺らし歩いていく。
最初は裾を握るだけだった彼女も、空気の威圧に恐れ。彼の腕に強く掴まり、後ろを幾度も幾度も振り返り歩いていた。
《なんだろう…誰かに見られている気がするんだけど………》
声にはしない。してしまえば増幅した恐怖に脳が支配されるという恐れがある。それを感じたから女は喉を鳴らすだけに留めた。
だからといって根本に植えつけられた恐怖は、それで収まる訳はなく。さらに持つ彼の腕に力を掛けるのだ。誰かといることで、少しでも感じる恐怖を和らげたい。当たり前の心理であった。
言葉に出来ず震える指先の、握る感触さえ、曖昧な気がする。しかしいざとなったら男が強いことは女には分かっていた。
『大丈夫』と繰り返すことで、漣のように寄せてくる不安を殺して歩いていく。
「ねぇ…何か話してよ」
緊張している様子もなく、庭を横切り、廊下が見えた庭へと進んでいく男。一歩中に踏み込んで歩き出してから、きちんと一度も返事を貰っていない。
それが不満で、女は強く男の腕を自らの胸元に寄せた。
「ねぇってば!」
強く言いながら腕を引けど、彼は一言も発せず。さらには無機質めいた瞳が女を見た。
「っ!?」
ごくっと唾を飲み込む音が、思いのほか強くなる。今まで男の色んな表情を知っていた女が初めて見た表情。
血の気ばかりか、全身の体温が下がっていくのを感じた。
「………やだ、ちょ…っ」
あまりに強い無言の威圧に耐えられず、女は掴んだ男の腕を離そうとした。
「ヒィ!」
そこを逆に掴み引き寄せられる。それは足元が危ないからだとか、彼女に寄り添いたいとかいう類ではなく、仕留めた獲物を引っ張る強さだ。もしくは家畜を捌き、後を処理場へと運ぶ強さだった。