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メビウス~無限∞回路

第8章 鳴き声(中編)

これがよもや神に対する態度かと疑いたくなるほどに、神楽の立場が上であることが理解出来る。長い歴史や系統の中で天照を顕現出来るほどの神子は、伊予以来と言えるのを尊も知っていることだ。伊予以降は神事の変質や霊の濁りなどが妨げとなり、三貴神の中でも最も尊いとされる天照を顕現する神子は生まれなかったのだ。まだ若いが御霊が空へ戻る際には天照眷属の道が整っているセレブリティであった。
姉の眷属入りが約束されている相手であることもあるが、この世界で神楽程の神力を持つ者は居ないだろう。

「ご飯って、てめぇは俺から絞り取るものもあるじゃねぇかっ!」
「それは仕方ないことですよ、私は人間ですからね…摂取しないと穢れまで取り込んでしまいますから」

生きとし生けるもの全てに持つ御霊の力。大地に転がる石にだって命はある。命が無いと言えるのは、カラカラに乾いてしまっている砂だけだ。相好捕食関係と言えば話は早いかも知れない。神楽は尊から神力を分けもらい、尊は違う神の神力エネルギーを増幅させて破魔祓いをしたりするのだ。
因みにご飯は一応、神物奉納されたものを食す。混じり気のない、専用の場所で作られる自然そのものを体内に取り入れることが出来る。早い話…その田んぼやらの世話をしているのが神楽であり、奉納された食事だけがご飯である尊は。それらを投げられると飢えることになるという訳だ。ーー胃を掴まれている以上、逆らえないものがある。後…天照眷属だというのに、黒い。…色々と黒い。

「さ、ほら箒…此処にいる限り働かざるもの食うべからずです」
「お前も働けよ!」
「私は既に働いた後です。…これから大学に行きますから大人しく社にいなさい」
「姉ちゃんの社は居心地悪りぃんだけど…」
「だったらついてきますか?」
「いいのか!?」

やった!掃除しなくていい! と喜びかけた尊に振り返って、一言大きく串をグサリと刺した。

「掃除が終わる頃には出れるでしょう…」

案にサボるなと告げて、さっさと身体にまとわりつく汗と流しに禊へと向かう神楽に、尊は舌を大きく出して「神楽のバカァ!」と吠えたのだった。
ほぼ毎日繰り返されるこの現状に。現神主である神楽の父は頭を抱えるばかりだ。

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