A heart and wound
第6章 揺らぎ
出ると、翔さんがぼうっと突っ立って、寝室の方を、つまり俺の方を眺めていた。
和「翔さん?」
翔「ん?…あ、あぁ、終わった?」
和「うん、一応目に付いたやつは。
もし、他にもあったら教えて?」
翔「うん…」
和「じゃあ、俺、そろそろ行くけど…本当に大丈夫?
もし、またなんかあって、辛かったり、しんどかったりして、雅紀にも言えない時には、いつでも連絡してきて?
お願いだから、本当に1人で泣くのだけはやめて?
俺は、ずっと翔さんの味方だから…」
翔「……ありがと。にの。」
和「ん。…あ、そうだ、これも返さなきゃね。」
そう言って、俺のキーケースに付いていた一つの鍵を外した。
…この家の、翔さんの部屋の、合鍵。
それを、翔さんの手に握らせた。
和「はい。…これ、返すね。」
翔「…え、いや…これは、和にプレゼントしたものだから…」
そう言って、突き返してくる翔さんの手を制して、
和「でも、今は、俺は使っちゃダメなものだから。
雅紀、知らないんでしょう?
俺が合鍵持ってる、なんて知ったらすごく悲しむよ?」
そう、優しく諭すように言った。
翔「…わ、わかった。
なんか、ごめんね?
色々気を遣わせて。」
和「何言ってんのよ。
何も謝らなきゃならないこと、してないでしょ?
じゃ、今度こそ。
…いってきます。」
翔「…いってらっしゃい。」
そう言って、翔さんの部屋を出た。
きっと…あれが最後の"いってきます"。
…最後に、和って、呼んでくれた。
…これで、本当に終わっちゃったんだなぁ。
チャリ、と音をさせてキーケースをとりだした。
…そこにあるのが当たり前になってた大切な大切な、翔さんの家の合鍵。
…なくなっちゃった。
俺と、翔さんの、歪な関係。
それでも、俺はすごく幸せだったから。
どうしても、涙が溢れてきて。
…これで、終わったんだって、実感した。
それでも、やっぱりまだ好きで。
愛しい、って気持ちが溢れてくる。
…諦めるには時間がかかりそうだなぁ。
それでも…俺は、翔さんのこと守り続ける。
隣に入れなくても、俺は1番の味方でいるから…